「憂がかわいい」は憂研ではない 【日記のようなもの #02】

2期5話「お留守番!」は憂の出番が多い。そう言われて反論する人は少ないだろう。しかし少数派ながら、お留守番回の憂の出番は少ないと主張する人がいる。と仮定する。仮にこの人をうんたんさんと呼ぶことにしよう。これは仮名であって実在の人物とは無関係であることを強調しておく。

うんたんさんの主張を端的にまとめるとこうなる。「もっと憂を出してほしい。これでは足りない。」

「そういう人もいるよね~価値観は人それぞれだし」が、うんたんさんと実際に会って話す場合の最適解である。相手が意見を押し付け、こちらの価値観を脅かそうとしてきたなら話は別だが、うんたんさんはそんなことはしないはずだ。だとしたらその意見は尊重するべきだし、仮に理解し合えないことでも認め合うことはできる。私の周りにも理解しがたい変態は多いが、それを認めてはいるし尊敬もしている。

さて、ここから本題に入る。うんたんさんの意見は、多くのけいおんファンの意見とは相反するかもしれないが、相反する意見があるところには新たな気づきがあったりする。

こんな問題を考えてみよう。「3.9kmは長いか短いか。」これは長いと感じる人が多い気がするが、短いと感じる人もいるだろう。パッとは答えられない人もいるはずだ。というか答えに悩む人が割合としては多いのかもしれない。答えに悩む人の主張はこうだ。「基準がないと長いか短いか答えられない。」

「長い」「短い」「大きい」「小さい」「速い」「遅い」などなど。これらは形容詞という分類の言葉で、「相対的である」という特徴がある。要するに、比較対象があって初めて成立する言葉である。例外もあるとは思うが、少なくとも先に列挙した6つの形容詞はそうである。ここで一番最初の話に戻ろう。お留守番回で憂の出番が多いか少ないかの話だ。

お留守番回の話は、「多い」「少ない」という相対的評価の基準をどこにおいているかの差が、意見の違いに直結している。例えば、「他のけいおんの話数における憂の出番」を基準におくなら、お留守番回の憂の出番は優位に多いといえる。お留守番回はけいおん全話数の中で最も憂の出番が多いことも宇宙規模で知れ渡った常識である。一方で、明確な数値化はできないにせよ、「自分が満足できるだけの量」という基準を持っているなら、それに満たないものは少ないと判断してもおかしくはない。

3.9kmというのは明石海峡大橋の全長であり、橋の長さという基準で見れば相当な長さである。競馬のレースでも3,900mは相当な長距離だ。一方で、ロードバイクで走る距離としては短距離である。駅間距離3.9kmとなると、これまた人によって意見が分かれてくる。比較の基準によって評価は変わるのである。

そして憂研は、このような人によって意見が分かれるものは扱わない。言い換えると、研究の結論に主観的な要素を入れない。お留守番回で憂の出番が多いか少ないかについての憂研としての答えは「多い」だが、これは「全話数の憂の出番」という基準から出る答えだ。この基準は数値化できるので、数字による明確な比較ができる。逆に言うと、数字で比較できない事柄については、形容詞を用いた評価を憂研ではしない。

「憂がかわいい」は憂研で扱わない事柄の代表例だ。ここまで読んでくださった方ならその理由は分かっていただけると思う。「かわいい」は形容詞なので、一応は相対的な評価ということになる。しかし、果たして何を基準にしているのだろうか。「長さ」については、個人差はあるとしても、基準を明確にすることである程度意見が噛み合う。数字による比較も容易である。だが「かわいさ」については、人によって基準もバラバラだし、その基準を数値化することもできない。つまり「かわいい」と言ったときに、その度合いも相手には正確には伝わらないし、そもそも相手が持っている「かわいい」の認識とは異なった用法の場合もある。こんな曖昧なものを憂研では扱わない。

しかしながら、その曖昧さにこそ、その人の個性が出ると思う。憂研はある意味で個性を殺すことをモットーにしているが、組織としてではなく私個人としては、曖昧で基準がよく分からない語彙はむしろ好んで使っている。そういった言葉は精練される前の直感的な熱量をそのまま乗せていってくれる気がするからだ。意味や意図を伝えることよりも、熱量をそのまま投げるイメージで使うことが多い。その言葉を聞いた相手がどう思うかなんて、憂がかわいいことに比べたら問題にならない。

もしうんたんさんが意味の分からない文言を呟いていたら、その言葉の意味を考えるのはほぼ無意味だ。なぜなら彼は言葉の意味など深く考えず、ただ手近にあった語彙に熱量を乗せてぶん投げているだけだからである。改めて言っておくが、うんたんさんは仮名であり実在する人物とは無関係である。

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